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東京地方裁判所 平成5年(ワ)2389号 判決

東京都千代田区神田練塀町七三番地

原告

中国パール販売株式会社

右代表者代表取締役

三宅輝義

右訴訟代理人弁護士

中島茂

野田謙二

伊藤圭一

右輔佐人弁理士

松浦恵治

千葉県船橋市習志野四丁目一一番一〇号

被告

朋和産業株式会社

右代表者代表取締役

村野友信

右訴訟代理人弁護士

小松陽一郎

右輔佐人弁理士

藤本昇

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の物件を製造、販売又は販売のために展示してはならない。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  右2につき、仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  鈴木喜作は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有している。

(一) 考案の名称 おにぎり包装用フイルム

(二) 出願日 昭和六〇年五月二八日(実願昭六〇-七九八〇三)

(三) 公告日 昭和六三年一〇月二〇日(昭六三-四〇一五二)

(四) 登録日 平成元年六月二六日

(五) 登録番号 第一七七五八三五号

(六) 請求の範囲 本判決末尾添付の実用新案公報(以下「本件公報」という。)の該当項に記載のとおり

2  原告は、右鈴木から、平成二年一二月一日、本件実用新案権について専用実施権の設定を受け、平成三年六月二四日、その旨の登録を経た。

3  本件考案の構成要件は、次のとおりである(なお、以下、右構成要件(一)を要件(一)といい、他の構成要件も同様に表示する。)。

(一) 矩形状の外装フイルムとその内面のほぼ中央において重合するよう配置された一対の隔離フイルムの外縁をシールすることにより袋部を形成し、

(二) 当該袋部を海苔の収納部とし、

(三) 隔離フイルム上におにぎりを載せ、外装フイルムを内側へ略半分に折り畳むと共に、その両隅部を更に折畳みシール片等により固定する包装用フイルムにおいて、

(四) 外装フイルムの略中央で隔離フイルムの重合端縁に沿った位置にミシン目を設け、

(五) 外装フイルムを略半分に折り畳んだ状態まで開封し、隔離フイルムの片方とともに、ミシン目部分で外装フイルムの略半分を切り離し可能とした、

(六) おにぎり包装用フイルム

4  本件考案の作用効果は、次のとおりである。

従来、外食用として販売されるおにぎりは、海苔の吸湿性を考慮して海苔を防湿性合成樹脂フイルムの袋内に収納しておにぎりと隔離し、食べる時に袋を剥がして海苔を取り出し、三角形状に成形されたおにぎりをその海苔に載せて三角形状に巻く作業を行い、海苔を巻いたおにぎりとして食べていた。

しかし、このような従来のおにぎり包装用フイルムでは、(1)海苔を取り出すために合成樹脂フイルムの袋を開封しなければならない、(2)おにぎりの移し換えに手間が掛かる、(3)面倒な海苔の巻き作業が必要である、という問題点があったので、本件考案は、これを解決しようとするものである。

5  被告は、別紙物件目録記載のおにぎり包装用フイルム(以下「被告製品」という。)を業として製造、販売している。

6  被告製品の構成は、次のとおりである。

(一) 矩形状の外装フイルムと、その内面のほぼ中央で重合するように配置された一対の隔離フイルムの外縁をシールすることにより袋部を形成し、

(二) 当該袋部を海苔の収納部とし、

(三) 隔離フイルム上におにぎりを載せ、外装フイルムを内側へ略半分に折り畳むとともに、その両隅部をさらに折畳みシール片により固定する包装用フイルムにおいて、

(四) 外装フイルムの略中央で隔離フイルムの重合端縁に沿った位置にカットテープを設け、

(五) 外装フイルムを略半分に折り畳んだ状態まで開封し、隔離フイルムの片方とともに、カットテープ部分で外装フイルムの略半分を切離し可能とした、

(六) おにぎり包装用フイルム

7  被告製品も、本件考案と同様の作用効果を有する。

8  以上のとおり、被告製品は、その構成において、本件考案のそれと全く同一であるか、又は全く同一の作用効果をもたらすものであって均等であるから、本件考案の技術的範囲に属するものといわなければならない。

9  よって、原告は、被告に対し、本件実用新案権の専用実施権に基づき、被告製品の製造販売等の差止めを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3の構成要件の分説の仕方は争う。

4  同4は認める。

5  同5は、別紙物件目録「構造の説明」部分を除き、認める。被告製品が別紙物件目録「構造の説明」記載のとおりであることは否認する。

被告製品の構造は、「矩形状」ではなく、「上方両隅部を切欠した凸状」であり、「重合するように配置された一対の『隔離フイルム』」ではなく、「それぞれの一側を折り返してその折り返し部が外装フイルムと反対側となるように重合された一対の『隔離フイルム』」であり、「隔離フイルムの外縁」ではなく、「隔離フイルムの一部を除きその外縁」である。また、被告製品では、「カットテープ」は外装フイルムの内面に設けられ、かつその上下端部の左右には切込みが形成されている。更に、被告製品においては、

「外装フイルムを略半分に折り畳んだ状態まで開封」することはない。

6  同6の事実は否認する。

7  同7は認める。

8  同8は争う。

三  被告の主張

1  「ミシン目」について

(一) 本件考案の実用新案登録出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲(以下「本件登録請求の範囲」という。)に記載された「ミシン目」とは、「不連続の点線状の穴の列」をいうものであって、右は一義的であり、カットテープとは明らかに概念が異なる。また、本件明細書の考案の詳細な説明、右登録出願の願書に添付された図面の各記載を参酌しても、狭義の「ミシン目」以外の概念を想起させるものは何らない。したがって、カットテープを切離し手段として具える被告製品は、本件考案の技術的範囲に属さないことは明白である。

原告は、右「ミシン目」の記載は、複数の公知手段の代表例を例示したものにすぎず、「適宜の切離し手段を施してなる切離し手段」の意味に解すべきであるとし、更には「ミシン目」に限定する記載は本件公報の記載中にないから、「カットテープ」も含まれる旨主張するが、出願当時公知公用の手段のうち特定の一手段を採用したことが明らかである場合には、権利はその実用新案登録請求の範囲に記載されたところに従って与えられ、明細書中に示されない他の公知手段には及ばないというべきであり、「ミシン目」も「カットテープ」も本件考案出願当時公知の技術であるところ、本件考案は、そのうちの「ミシン目」との手段を採用したことが明らかであるから、本件において、「ミシン目」の記載は、当時すでに公知であった「カットテープ」を技術的範囲として含まないというべきである。したがって、右「ミシン目」を原告主張のように拡大して解釈することは許されない。

(二) また、作用効果の面においても、「ミシン目」と「カットテープ」とでは次のような相違がある。

(1) 「ミシン目」では、ミシン目の空隙を通して空気が海苔と接触し、湿気が侵入するので、海苔が湿るおそれがあるが、「カットテープ」では、ミシン目におけるような空隙がないためこのような海苔の湿りを防止することができる。

(2) 「ミシン目」では外装フイルムの半分を容易に切り離すことができないが、「カットテープ」では外装フイルムの切離しが容易である。

(三) 更に、本件考案の出願人である鈴木喜作は、本件考案と技術的分野を同じくする他の出願において、「ミシン目」の語を「カットライン」と区別して使用し、あるいは「ミシン目」の語と「カットテープ」を区別して使用しているのであって、権利者自らが明確に区別して使用している概念を拡大して解釈することは許されるべきではない。

2  「外装フイルムを略半分に折畳んだ状態に開封し」について

(一) 被告製品は、その表面に、イラスト付きの解説で、「〈1〉 テープを下にひいて下さい」「〈2〉 テープを裏に回してお切り下さい」「〈3〉 〈2〉〈3〉をつまんで袋をひいて下さい」と記載されているように、おにぎりを包装したままの状態でカットテープにより外装フイルムを切断分割し、その後、分割後の外装フイルムの一方と内装フイルムの一方を同時に外側に引き出す構造となっている。すなわち、被告製品は、カットテープを設けているため、外装フイルムを略半分に折り畳んだ状態まで開封する必要もないばかりか、開封する構造、使用状態を予定しておらず、包装状態のまま外装フイルムを切断することができる。

これに対し、本件考案においては、外装フイルムの切離し手段としてミシン目が包装材の全周に形成され、その中には比較的破れ易い海苔と隔離フイルムと形崩れしやすいおにぎりが入っているため、必ず包装後の外装フイルムを略半分に折り畳んだ状態まで開封しなければ切断できないのである。原告自身、本件考案を実施していないことに照らしても、本件考案の「ミシン目」ではおにぎり用包装フイルムの分離手段として役に立たないことは明らかである。

このように、本件考案においては、「外装フイルムを略半分に折畳んだ状態まで開封」することが要件であるが、被告製品は、その構成上、「外装フイルムを略半分に折畳んだ状態まで開封」することは予定されていないばかりか、略半分に折り畳んだ状態まで開封する必要がないのであるから、右要件を充足しないものというべきである。

(二) 右のような構成上の相違から、本件考案にかかる包装フイルムと被告製品とは、作用効果上も次のとおり相違する。

(1) 被告製品においては、包装状態のままカットテープを引くことにより外装フイルムを切断できるから、本件考案のように包装後の外装フイルムを略半分まで開封する手数が不要である。

(2) 本件考案においては、食べる際に必ず外装フイルムをほぼ半分に開封しなければならないから、シール片を剥がすことが不可欠であるが、被告製品においては、シール片を剥がすことはまったく不要である。

(三) 原告は、海苔を完全な形で残すため、外装フイルムを略半分に折り畳んだ状態まで開封することを要する旨主張するが、海苔を完全な形で残すためという目的は、本件明細書にはまったく記載されていないのであって、明細書に記載されていない目的を本件登録請求の範囲の解釈において参酌することはできないというべきである。

また、被告製品においては、原告主張のような海苔の隅部が残るというようなことはほとんどないが、仮にあったとしても、おにぎりの外周の大部分には海苔が巻かれるから実際には問題とならない。

四  被告の主張に対する原告の反論

1  被告の主張1(「ミシン目」)について

(一) 本件登録請求の範囲における「ミシン目」は「適宜の切離し手段を施してなる切離し手段」の意味であると解すべきである。その理由は以下のとおりである。

(1) 包装用フイルムの業界においては、切離しの手段としては、狭義のミシン目を設ける方式の外、カットテープを設ける方式、一方向にのみ張力をかけて成形し、一定方向には切れやすく、他方向には切れにくい方向性フイルムを使用する方式などが知られている。

ミシン目は、切離し部分に点線状の穴を開けておく方法であり、当業界においては古くから知られており、技術的にももっとも単純かつ素朴な手段である。また、カットテープ方式も昭和一〇年代から包装用具の切断手段として用いられているものである。昭和二〇年代に合成樹脂が包装用具の素材として登場してからは、包装用具の切断手段としてミシン目方式とカットテープ方式が切離しのための適宜の選択手段として並列的に用いられており、現在では、切離し手段としては、ミシン目方式とカットテープ方式が中心的なものとなっている。

そして、右にいう狭義のミシン目という用語でさえ、実際のミシンによって開けられた穴という意味から離れて、切り取り線にするための一連の穴として、切り取るという目的、機能と密接不可分の概念となっている。日常用語としても、ミシン目は、切り取るという目的、機能と密接不可分の概念となっている。したがって、本件考案出願当時、当業者間では、ミシン目なる語は、切り取るという目的、機能と密接不可分の概念として理解され、狭義のミシン目の意味から離れて、切り取り線そのものを意味する語として使用されていたというべきである。

(2) また、本件考案は、従来技術における問題点を解決するため、一刀両断的に、外装フイルムを隔離フイルムとともに左右に切り離すという画期的技術であり、その要点は「外装フイルムの略半分を切離し可能とした」点にあるのであって、その具体的な切離し手段が狭義のミシン目方式によるか否かに技術的な重点があるわけではない。

(3) 更に、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の項にも、詳細な説明の項にも、外装フイルムの具体的な切離し手段を狭義のミシン目方式のものに限定するとの趣旨の記載は一切ない。

(4) これらの点を考慮すると、本件登録請求の範囲における「ミシン目」は、「適宜の切離し手段を施してなる切離し手段」の意味であると解すべきであり、狭義のミシン目方式、カットテープ方式、方向性フイルム方式等の切離し手段すべてを含み、それらを総称するものというべきである。

(二) 被告は、狭義のミシン目方式とすると、その穴から空気が流通して海苔が湿るが、カットテープ方式ではそのようなことはない旨主張するが、フイルムの重合部分からの空気の流通もあるから、「ミシン目」からの空気の流通を議論することは意味がない。

2  被告の主張2(「開封」)について

(一) 本件登録請求の範囲の「外装フイルムを略半分に折畳んだ状態まで開封」するとの記載は、それ自体では方法的記載であって、被告主張のようにこれのみを独立の要件とすることは、実用新案権が物品の形状、構造、組合せを対象とし、方法を対象としていない点に照らして相当でなく、あくまで、物品の形状、構造、組合せを限定する機能を有する場合にその限度で意味があるものと解すべきである。

(二) 本件登録請求の範囲における「外装フイルムを略半分に折畳んだ状態まで開封し」という記載は、「外装フイルムを略半分に折畳んだ状態まで開封して隔離フイルムの片方とともに外装フイルムの略半分を(左右に)切り離すことができるような構造」との趣旨の記載として理解されるべきである。

(三) 被告製品は、客観的な構造としては、「外装フイルムを略半分に折畳んだ状態まで開封して隔離フイルムの片方とともに外装フイルムの略半分を(左右に)切り離すことができるような構造」を有していることは否定しえないのであるから、構造的に同一である以上、本件考案の右構成を有しているものというべきである。なお、被告製品の表面のイラスト付き解説には、カットテープ部分で切り離して使用するように記載されており、

「外装フイルムを略半分に折畳んだ状態まで開封」することは省略して使用するように使用方法が指定されているが、右説明は客観的な構造まで変更するものではない。

(四) 作用効果の面においても、「外装フイルムを略半分に折畳んだ状態まで開封」することにより、海苔を完全な形で残すことが可能となる。すなわち、本件考案の包装用フイルムにおいては、外装フイルムと隔離フイルムに挟まれた海苔が内側に略半分折り曲げられているため、そのままの状態で外装フイルムをミシン目部分で左右に切り離して引っ張ると、切離し自体は容易ではあるものの、内側に折り曲げられたままの海苔が左右に引っ張られるため、折曲げ部分で切断されざるを得ず、その結果、折り曲げられた部分が三角形状に残ってしまうこととなるが、外装フイルムを略半分に折り畳んだ状態まで開封してから左右に切り離すと、海苔を完全な形で残すことが可能となり、このような失敗を避けることができるのである。

被告製品においても、おにぎりを包装したままの状態でカットテープで外装フイルムを切断分割し、その後分割後の外装フイルムの一方と隔離フイルムの一方を同時に引き出すと、フイルムの隅に海苔を残したり、海苔の破損を生じ、海苔の隅部が切れ残るという事態が生じる。しかしながら、被告製品においても「外装フイルムを略半分に折畳んだ状態まで開封」すれば、海苔の隅の部分が三角形状にちぎれるという事態を回避することができるから、それにもかかわらず、外装フイルムを略半分に折り畳んだ状態まで開封するという過程を経ないというのは不自然である。被告製品においても、右の過程を経ることが望ましい構造を有していることに変わりはない。

(五) なお、被告は、本件考案においては、食べる際に必ず外装フイルムをほぼ半分に開封しなければならないから、シール片を剥がすことが不可欠である旨主張するが、このシール片は最終の販売段階で貼付されるものであり、おにぎり包装用フイルムである被告製品の構造とは関係がない。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1、2及び4の事実並びに5のうち被告製品が別紙物件目録の構造の説明のとおりのものであることを除く事実は、当事者間に争いがない。

二  右争いのない請求原因1の事実及び成立に争いのない甲第三号証(本件公報)によれば、本件考案の構成要件は、請求原因3のとおりであることが認められる。

三  被告製品が本件考案の技術的範囲に属するか否かに関し、「外装フイルムの略中央で隔離フイルムの重合端縁に沿った位置にミシン目を設け、」との要件(四)を充足するかについて、判断する。

1  まず、「ミシン目」について検討することとする。

本件登録請求の範囲において、「ミシン目」は、その用語自体に照らし、ミシン針の縫い目のあとのように点線状に開けられた穴又は穴の列を意味することが明らかであるが、これに加えて、本件登録請求の範囲においては、「外装フイルムの略中央で隔離フイルムの重合端縁に沿った位置にミシン目を設け」あるいは「外装フイルムを略半分に折畳んだ状態まで開封し隔離フイルムの片方とともにミシン目部分で外装フイルムの略半分を切離し可能とした」と記載されており、右記載からは、「ミシン目」が外装フイルムの略半分を切り離すための切離し手段としての機能を有するものであることが明らかである。

そして、この点に関する考案の詳細な説明をみると、「本考案は、ほぼ中央にミシン目が設けられた外装フイルムと一対の隔離フイルムによって形成された袋状の収納部内に海苔を入れ」(本件公報2欄9ないし12行)、「食べる時に外装フイルムをミシン目部分で隔離フイルムとともに海苔やおにぎりを残したまま切離すことができ」(同2欄14ないし16行)と記載され、その実施例の説明においても「7は外装フイルム1のほぼ中央に設けられたミシン目で、前記隔離フイルム2、3の重合端縁に沿った位置に隔離フイルム2、3とともに容易に切離すことができるように直線状に構成されている。」(同3欄3ないし7行)、「外装フイルム1の片端を引っ張りその約半分をミシン目7で切離す。」(同3欄23ないし25行、)、「本考案に係わるおにぎり包装用フイルムによれば、食べる時に外装フイルム1をミシン目7で切離すだけでよく」(同4欄5ないし7行)と記載され、更には、願書に添付された図面に「ミシン目7」として、外装フイルムのほぼ中央部分に一列の点線が記載されているから(本件公報第2ないし第5図)、「ミシン目」の意義もしくはその構成について、前記のような本件登録請求の範囲に記載された内容、すなわち、本件考案の登録請求の範囲における前記「ミシン目」が、直線状かつ点線状に開けられた一列の穴ないしはその列という構成を示すものとして用いられていることを確認することができる。

2  別紙物件目録のうち当事者間に争いがない部分、被告製品であることについて争いのない検甲第一号証及び弁論の全趣旨によると、被告製品がおにぎり包装用フイルムの切離し手段として「カットテープ」方式を採用していること、そして、被告製品においては、外装フイルムの内面に密着されたテープを、切込み部分から、上方かつ切込み部分とは反対方向に引くことによって外装フイルムを切り離すものであって、外装フイルムには切離しのための直線状かつ点線状に設けられた一列の穴ないしはその列は存在しないことが認められるから、被告製品は、本件登録請求の範囲にいう「ミシン目」に相応する構造を具備するものではないというべきである。

3  原告は、本件考案の出願当時、フイルムの具体的切離し手段として複数の公知技術が存したが、本件登録請求の範囲の「ミシン目」は、その代表例を例示したものにすぎず、「適宜の切離し手段を施してなる切離し手段」の意味に解すべきであるから、右「ミシン目」は、狭義の「ミシン目」に限定されるものではなく、「カットテープ」方式も含まれる旨主張する。

しかしながら、本件登録請求の範囲には、右「ミシン目」について、原告の右主張のように解する手掛かりとなる記載は全くないのみならず、本件明細書の考案の詳細な説明にも、「ミシン目」を原告主張のように定義付け、あるいはこれを説明した記載は全くなく、本件記録を精査しても、原告の右主張を認めるに足りるような証拠はない。

かえって、前掲甲第三号証、成立に争いのない甲第四号証の一ないし四、第五号証、乙第一号証の一ないし五、第二号証の一、二、第三ないし第五号証、第六号証、被告製品であることに争いのない検甲第一号証、原告製品であることに争いのない検乙第一号証並びに弁論の全趣旨によれば、

(一)  「ミシン」あるいは「ミシン目」は、一般に、紙、セロファン、フイルムなどに、切り取りやすいようにあけられた点線状の穴を意味する語として用いられていること、

(二)  本件考案の出願当時、包装用フイルムの切離し手段として「ミシン目」方式、「カットテープ」方式、「方向性フイルム方式」などの技術が当業者において公知であったこと、

(三)  右「ミシン目」方式は、ポケットティッシュの包装などのように、フイルムに点線状の穴の列を設ける方式であり、「カットテープ」方式は、タバコやキャラメルなどの包装のように、フイルムに開封用のカットテープを装着する方式であり、「方向性フイルム方式」は、酒のつまみ類の包装などのように、一定方向に切れやすく、他方向に切れにくい性質のフイルムを使用したうえ、切欠き部分などを設ける方式であること、

(四)  「ミシン目」方式においては、切り離す際、フイルムに設けられた点線状の穴の列を中心にして、それぞれ左右にフイルムを引っ張り、点線状の穴の列の部分を切り離すことにより、フイルムを二分割するが、その際、右の点線状の穴の列の部分の左右のフイルムを両手でそれぞれ支持したうえ、左右のフイルムにそれぞれ相当程度の力を加える必要があること、したがって、これを設けるためのコストは低廉ではあるものの、内容物の性質、形状によっては包装の中身の形が崩れたり、壊れたりすることもありうること、

これに対し、「カットテープ」方式においては、開封用のテープを引いて取り去るだけでフイルムを二分割しうるものであり、その際、テープの除去自体は片手で可能であり、フイルムの切離しが「ミシン目」方式に比較してはるかに容易であり、中身が形崩れすることもほとんどないこと、

したがって、「ミシン目」方式と「カットテープ」方式とでは、その構成が全く異なるうえに、そのコストが「ミシン目」方式よりは高くなるものの、機能的には著しい相違があること、

(五)  本件考案の出願の前後を通じて、海苔巻寿司やおにぎりの包装用フイルムに関する特許出願又は実用新案登録出願において、「ミシン目」という語が「切離し手段一般」ないし「切離し手段の例示」として用いられたことはなく、かえって、「ミシン目」という語と「カットテープ」という語とは、フイルムの切離し手段を示すものとして明確に区別して使用されていたこと、以上の事実が認められ、右認定の事実に照らして考えると、本件明細書の本件登録請求の範囲における「ミシン目」を、原告の前記主張のように、適宜の切離し手段を施してなる切離し手段を意味し、カットテープ方式を含むものであると解することは到底できないというべきである。

4  以上のとおりであるから、被告製品は、本件考案の要件(四)を充足しない。

四  次に、本件考案の「外装フイルムを略半分に折畳んだ状態まで開封し隔離フイルムの片方とともにミシン目部分で外装フイルムの略半分を切離し可能とした」との要件(五)について、判断する。

1  本件登録請求の範囲には、「外装フイルムを略半分に折畳んだ状態まで開封し隔離フイルムの片方とともにミシン目部分で外装フイルムの略半分を切離し可能とした」と記載されているところ、右の「外装フイルムを略半分に折畳んだ状態まで開封し」は、通常の用語例、前後の文脈に従えば、「外装フイルムを略半分に折畳んだ状態まで開封した後」の意味であると認められる。本件明細書の考案の詳細な説明をみても、「このようにして包装されたおにぎりを食べる時は、シール片9を剥してフイルムの両隅部を第3図に示す元の位置まで開封し、外装フイルム1の片端を引っ張りその約半分をミシン目7で切離す。これに伴い片方の隔離フイルム3も切離され、第6図に示すようにおにぎり8が海苔5に巻かれた状態で半分露出する。」(本件公報3欄21行ないし4欄1行)と記載されているから、いったん外装フイルムを略半分に折り畳んだ状態まで開封した後、ミシン目部分で切り離すとしていることが認められる。したがって、本件考案は、おにぎり包装用フイルムとして、単にミシン目部分で外装フイルムの略半分が切り離すことができればよいというものではなく、外装フイルムを略半分に折畳んだ状態まで開封した後に、隔離フイルムの片方とともに、ミシン目部分で外装フイルムの略半分を切り離すことを必須の構成要件とするのであって、本件考案にかかるおにぎり包装用フイルムは、右のような構造、形状を有するものと認められる。

2  別紙物件目録のうち当事者間に争いがない部分、前掲検甲第一号証、甲第四号証の一ないし四、原告主張のテレビ番組を録画したビデオテープであることについて争いのない検甲第二号証並びに弁論の全趣旨によれば、(1)被告製品は、その表面にイラスト付きで、「〈1〉テープを下にひいて下さい。」「〈2〉テープを裏側に回してお切下さい。」「〈3〉〈2〉〈3〉をつまんで袋をひいて下さい。」と記載され、おにぎりを包装したままの状態でカットテープにより外装フイルムを切断分割し、その後、分割後の外装フイルムの一方と隔離フイルムの一方を同時に外側に引き出すように指示説明されていること、(2)被告製品は、外装フイルムの略中央部分にフイルムの切離し手段としてカットテープを具え、おにぎり包装の最後の段階において、外装フイルムと隔離フイルムに海苔を挟んだ状態で、フイルムの上端が折り畳まれ、右折り畳んだフイルムの両隅部にかかるように、おにぎりの中身、製造元等が記載されたシール片が貼りつけられてフイルムが固定され、その包装が完成すること、(3)右シール片の形状、大きさは、縦約三・五センチメートル、横約五・四センチメートルの略長方形であり、その裏面全体に相当に強力な粘着糊が塗布され、食べる際、シール片をいちいち剥すことは相当に面倒なだけでなく、これを剥すことにより包装されている海苔やおにぎりを損傷する可能性もあること、(4)右シール片は、前記カットテープにより外装フイルムとともに切り取ることは比較的容易であって、被告製品に包装されたおにぎりの購買者は、外装フイルムを略半分に折り畳んだ状態まで開封しなくとも、包装された状態のままカットテープにより開封することができること、以上の事実が認められる。

右事実によれば、被告製品においては、被告製品により包装されたおにぎりの一般的な購買者が、表面に記載された説明書に反し、敢えて困難なシール片剥離作業を経て外装フイルムを略半分に折り畳んだ状態まで開封するということは通常考えられない用法であるといわなければならない。

そうすると、被告製品は、シール片を剥離して外装フイルムを略半分に折り畳んだ状態まで開封することは必要ないのみならず、このような開封を予定しない形状ないし構造の包装用フイルムであるというべきである。

3  原告は、被告製品においても、「外装フイルムを略半分に折畳んだ状態まで開封」すれば、海苔の隅の部分が三角形状にちぎれるという事態を回避することができるし、また、それが可能なのであるから、外装フイルムを略半分まで折り畳んだ状態まで開封するという過程を経ないというのは不自然であり、被告製品においても、右の過程を経ることが望ましい構造を有していることに変わりはない旨主張するが、右2に認定したとおりであって、原告の右主張は採用することができない。

4  以上のとおりであるから、被告製品は、本件考案の「外装フイルムを略半分に折畳んだ状態まで開封し隔離フイルムの片方とともにミシン目部分で外装フイルムの略半分を切離し可能とした」との要件(五)を充足しないものというべきである。

五  なお、原告は、本件登録請求の範囲における「ミシン目」を「カットテープ」に置き換えることが可能であることを前提として、被告製品が本件考案と均等であるとの主張をするかのようであるが、本件において、フイルムの切離し手段としての「ミシン目」と「カットテープ」とでは、すでに説示したとおり、その構成においても、作用効果においても異なるものであるといわなければならないから、原告の前記主張はその前提を欠き、採用することができない。

六  以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 一宮和夫 裁判官 足立謙三 裁判官 前川高範)

別紙 物件目録

おにぎり包装用フイルムであって、左の第一図~第三図に示す構造のもの。

第1図

包装用フイルムの一部破断内面図

〈省略〉

第2図

包装用フイルムの外面図

〈省略〉

第3図

A-A拡大断面図

〈省略〉

構造の説明

矩形状の「外装フイルム」と、その内面のほぼ中央で重合するように配置された一対の「隔離フイルム」の外緑をシールすることにより袋部を形成し、

当該袋部を海苔の収納部とし、

右隔離フイルム上におにぎりを載せ、外装フイルムを内側へ略半分に折畳むと共に、その両隅部をさらに折畳シール片により固定する包装用フイルムにおいて、

外装フイルムの略中央で隔離フイルムの重合端緑に沿った位置にカットテープを設け、

外装フイルムを略半分に折畳んだ状態まで開封し、隔離フイルムの片方とともに、カットテープ部分で外装フイルムの略半分を切離し可能とした

おにぎり包装用フイルム。

〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉実用新案出願公告

〈12〉実用新案公報(Y2) 昭63-40152

〈51〉Int.Cl.4A 23 L 1/10 B 65 D 65/10 識別記号 庁内整理番号 F-8114-4B A-7234-3E 〈24〉〈44〉公告 昭和63年(1988)10月20日

〈54〉考案の名称 おにぎり包装用フイルム

〈21〉実願 昭60-79803 〈65〉公開 昭61-194658

〈22〉出願 昭60(1985)5月28日 〈43〉昭61(1986)12月4日

〈72〉考案者 鈴木喜作 東京都練馬区土支田1丁目19番8号

〈71〉出願人 鈴木喜作 東京都練馬区土支田1丁目19番8号

〈74〉代理人 弁理士 平田功

審査官 鈴木恵理子

〈57〉実用新案登録請求の範囲

矩形状の外装フイルム1とその内面のほぼ中央において重合するよう配置された一対の隔離フイルム2、3の外縁をシール4することにより袋部を形成しこれを海苔5の収納部6とし、隔離フイルム2、3上におにぎり8を載せ外装フイルム1を内側へ略半分に折畳むと共にその両隅部を更に折畳みシール片9等により固定する包装用フイルムにおいて、前記外装フイルム1の略中央で隔離フイルム2、3の重合端縁に沿つた位置にミシン目7を設け、外装フイルム1を略半分に折畳んだ状態まで開封し隔離フイルム2、3の片方とともにミシン目7部分で外装フイルム1の略半分を切離し可能としたおにぎり包装用フイルム。

考案の詳細な説明

イ 産業上の利用分野

本考案はおにぎりと海苔が隔離して包装保存され購入者が食べる時におにぎりに海苔を巻いて食べることができる、おにぎり包装用フイルムに関するものである。

ロ 従来の技術

近年、社会生活の変化に伴い外食産業が発展し、海苔を巻いて食べるおにぎりもスーバーマーケツトや食料品店等で販売されているが、これら外食用として販売されるおにぎりは、海苔の吸湿性を考慮して「海苔」を防湿性合成樹脂フイルムの袋内に収納し「おにぎり」と隔離し、食べる時に袋を剥して海苔を取出し、三角形状に成形された「おにぎり」をその海苔に載せて三角形状に巻作業を行い、海苔を巻いたおにぎりとして食べていた。

ハ 考案が解決しようとする問題点

このような従来のおにぎり包装用フイルムでは、食べる時にフイルム袋の開封や「おにぎり」の移し換えに手間が掛り、また、海苔の巻作業も面倒であつた。

ニ 問題点を解決するための手段

上記の点に鑑み、本考案は、ほぼ中央にミシン目が設けられた外装フイルムと一対の隔離フイルムによつて形成された袋状の収納部内に海苔を入れ、隔離フイルム上に置かれたおにぎりを包装フイルムにて三角形状に包装するようにしたもので、食べる時に外装フイルムをミシン目部分で隔離フイルムとともに海苔やおにぎりを残したまま切離すことができ、且つ、海苔の隅部を折畳むだけで海苔を巻いたおにぎりとして簡単に食べることができる、おにぎりの包装用フイルムを提供することを目的とする。

ホ 実施例

以下、図面により本考案実施の1例を詳細に説明する。

1は長方形に裁断された透明ボリセロフアン等よりなる外装フイルム、2と3はその内面のほぼ中央において重合するよう配置された同素材の一対の隔離フイルムで、外縁にシール4を施して外装フイルム1と接着し海苔5の袋状の収納部6を設ける。

尚、外装フイルム1の両側に隔離フイルム2、3を延長形成し、これらを内方へ折込んで海苔5の収納部6とすることもできる。

7は外装フイルム1のほぼ中央に設けられたミシン目で、前記隔離フイルム2、3の重合端縁に沿つた位置に隔離フイルム2、3とともに容易に切離すことができるように直線状に構成されている。

8は本包装用フイルムによつて包装される三角形状のおにぎり、9は折畳んだ包装用フイルムを固定するシール片を各々示す。

ヘ 考案の作用効果

以上の構成から成るおにぎり包装用フイルムを用いておにぎりを包装するには、まず外装フイルム1と隔離フイルム2、3とにより構成されている袋状の収納部6内に海苔5を入れ、その後第3図に示すように隔離フイルム2、3上に三角形状のおにぎり8を載せ外装フイルム1を内側へ略半分折畳む。次いで、重合したフイルム上端の両隅部を第4、5図に示すように更に折畳み、その両端縁にシール片9を貼着して固定する。

このようにして包装されたおにぎりを食べる時は、シール片9を剥してフイルムの両隅部を第3図に示す元の位置まで開封し、外装フイルム1の片端を引つ張りその約半分をミシン目7で切離す。これに伴い片方の隔離フイルム3も切離され、第6図に示すようにおにぎり8が海苔5に巻かれた状態で半分露出する。次いで、残りの外装フイルム1と隔離フイルム2を引抜き、現われた海苔5の両隅部を第7図に示すように折畳んで食べるものである。

以上のように本考案に係わるおにぎり包装用フイルムによれば、食べる時に外装フイルム1をミシン目7で切離すだけでよく、従来のように海苔5を取出すための剥離フイルム2、3の剥離作業やおにぎり5の移し換え作業を必要とせず、また、海苔5の巻作業も1部でよいため手間が掛らない等々の効果を奏するものである。

図面の簡単な説明

第1図は本考案に係るおにぎり包装用フイルムの一部破断内面図、第2図はその外面図、第3図はフイルム内側におにぎり8を載せ半分に折畳んだ状態の外面図、第4図は半分に折畳んだフイルムの片隅部を折畳んだ状態の外面図、第5図は両隅部を折畳んだ状態の外面図、第6図は第3図の右半分をミシン目で切離した状態の外面図、第7図はおにぎり8を海苔5で巻いた状態の説明図である。

図中主要符号、1……外装フイルム、2、3……隔離フイルム、4……シール、5……海苔、6……収納部、7……ミシン目、8……おにぎり、9……シール片。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

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第6図

〈省略〉

第7図

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実用新案公報

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